2021年05月20日

国内外のアパレル業界の労働環境について考えてみた。業界が抱える労働問題と解決策

アパレル業界は、ファッションブランド「INGNI」で発生した過労死や、「ラナプラザの悲劇」で知られる海外縫製工場の崩壊など、多くの社会問題を抱えています。今回は、普段あまり知られることのないアパレル業界の労働環境について考えてみたいと思います。

ファッション業界が抱える問題点〜華やかなアパレル店員の労働環境の裏側~

ファッション業界、アパレル業界というと華やかなイメージを持っている方が多いと思います。特に、デザイナーによって作られた服を身につけて販売するアパレル店員さんはその代表例ともいえます。一方で、その華やかさとは逆に残業時間が多い、賃金が低いといった多くの問題点もあります。なぜそのような問題が発生しているのかについて深掘りしていきます。

長時間労働が発生している原因は、慢性的な人手不足が考えられます。アパレル業界は消費者商売という特性を持つので、土日祝日や年末年始、大型連休等の繁忙期は勤務する必要性があります。日本企業の年間取得休日数は120日前後が平均ですが、アパレル業界は90日前後と極めて少ない休日数が現状です。

また、長時間労働であるにもかかわらず低賃金であることも問題です。アパレル業界で働く人の平均年収は341万円で、日本人の平均年収436万円と比べると、低い基準であることがわかります。それに加えて、店頭で着るための服を自腹で購入しなければならないので、最終的に手元に残る金額は少なくなってしまいます。多少割引はありますが、週5回勤務や、シーズン毎に発売される新商品を制服として着用するとなると、結果として多くの支出を要します。

コロナ禍が炙り出した海外縫製工場の労働問題

新型コロナウイルスの感染拡大が原因でアパレル商品の需要が縮小し、大手セレクトショップがアジア縫製下請け工場に出した注文を取り消したり、代金を払わないケースが問題となっています。
特に大きな影響を受けているのが、バングラデシュやカンボジアといったアジアの貧しい労働者です。

バングラデシュ衣料品製造・輸出業者協会(BGMEA)会長のルバナ・ハク氏によると、31億7000万ドル(約3390億円)相当の注文のキャンセルを受けて、227万人の労働者に影響が及びました。そのため労働者たちは仕事を解雇されてしまい、厳しい生活を強いられています。

売れ残った15億着の服は、ゴミ処理場を圧迫

1年間でアパレル業界から出る服の廃棄量は、なんと15億着に及びます。29億着生産されその半分は廃棄処分されているという現状です。

大きな理由として3つ挙げられます。

ブランド力保持のため廃棄するしかない

アパレルブランドは取引先との取り決めによりブランド価値を下げてしまわないよう、仕方なく新品のまま商品を廃棄しなければなりません。値下げをして商品を販売することは消費者からの信頼(ブランド力)の低下を招くリスクがあるため、値下げ販売をせずそのまま新品廃棄せざるを得ないのです。

ファストファッションの台頭

低価格な衣類を求める消費者のニーズに応えた「ファストファッション」の台頭があります。経済産業省のデータによると、バブル期に15兆円あったアパレル市場も現在は10兆円程度に縮小しています。ところが、現在の供給量は20億点から40億点となっておりほぼ倍増しています。服の価値も低下していて1991年と比べると、6割程度に落ち込んでしまっています。
また、ファストファッションの多くは化学繊維から作られているため、リサイクルされずに廃棄処分される運命にあります。

見込み生産しなければならない業界構造

アパレル業界は流行と需要を予測して見込み生産をしなければならないので、需要量を読み間違えた場合、どうしても不良在庫が生まれてしまいます。なぜなら、企画、開発そして販売に至るまで約1年間必要だからです。結果として、見込みが大きく外れた場合は大量の不良在庫が生まれてしまい、その多くは廃棄処分されてしまうのです。

毎秒トラック一台分の衣類が焼却あるいは埋め立て処分されているというのですから驚きを隠せません。

アパレル産業が抱える環境問題に対するサステナブルな取り組み

日本で生産される29億着のうち15億着が廃棄処分されています。こうした衣類の廃棄ロスは大きな問題です。この廃棄ロスを削減するために取り組んでいる企業があるので、ご紹介いたします。

カラーズの取り組み

1つ目が、東京や大阪を中心に10店舗ほど展開する激安店「カラーズ」です。新品のほとんどの衣類を1000円以下で提供しています。カラーズは、メーカーやアパレル工場から過剰生産や納期遅れといった理由の商品を、在庫処分品として直接買取しています。そのため高品質な商品を低価格で提供することが可能です。

リネームの取り組み

2つ目に、FINE(名古屋市)の「Rename(リネーム)」です。リネームは、売れ残った在庫を買い取りアパレル加工工場で、ブランドネームやタグを付け替えます。いろいろなブランドの服がリネームのブランドタグで販売されます。ブランドは、商品の価値を損なうことなく廃棄を抑えることができます。また、消費者は価格の抑えられた商品を購入することができるので、三方よしのビジネスモデルといえます。

薄利多売のファストファッションが引き起こす労働・環境問題

労働問題

ファストファッションブランドの多くが賃金の安い発展途上国に生産拠点を置いています。賃金の基準が低い国で生産することで労働コストを抑えることができます。その結果として、安い服を大量に生産することが可能なのです。しかしながら、労働者の多くは安い賃金で長時間労働を強いられていたり、劣悪な労働環境で働かなければならない状況があります。

ファストファッションの労働問題を浮き彫りにした印象的な事故があります。2013年4月24日に、バングラデシュの首都ダッカにある縫製工場が入ったビル「ラナ・プラザ」が崩壊する事故がありました。死者1138人負傷者2500人以上にものぼる大事故で、被害は甚大なものでした。「ラナ・プラザ」の悲劇に関してはこちらの記事で詳しく解説しています。

環境問題

アパレル業界は、世界全体で一年に排出される二酸化炭素のうち10%を排出しているといわれています。この数字はEU全体の排出量とほぼ同じで、航空業界と輸送業界の合計の排出量より多い割合です。

また、衣類の洗濯によって毎年50万トンのマイクロファイバーが海に流出されています。これをペットボトルで換算すると、500億本という膨大な量です。マイクロファイバーは容易に分解されない物質で、一度海に流出されると長いあいだ漂流します。餌と一緒にマイクロファイバーを食べてしまった魚の体の中には、マイクロファイバーが蓄積するため、その魚を食べた人間が間接的にマイクロファイバーの被害を受けてしまう状況も考えられます。

環境問題に取り組むファッションブランドはこちらの記事で紹介しています。

まとめ

アパレル業界はさまざまな問題を抱えている業界です。未来の子供たちに美しい地球を残すためには、持続可能な社会について真剣に考える必要があります。国や企業だけではなく、私たち1人1人がサスティナブルな生活を意識すること。やがてそれが大きな力となり、持続可能な社会の実現へとつながるでしょう。この記事が皆様の考えるきっかけになれば幸いです。

関連記事

アパレル業界の環境問題について考えてみた。問題解決のための取り組みとは?
再生繊維で作られた服は環境にやさしい?様々な種類がある再生繊維を紹介します。
〜服の廃棄が起こす負の連鎖〜「永く使う」ってなんだろう。
サスティナブルな暮らしで地球の未来・環境を守る行動を
近年注目を集めるサスティナブルとは?サスティナブルファッションと歴史を解説