2021年03月22日

ラナプラザの悲劇~ファストファッションの問題を浮彫りにした死者多数の事故~

最新のデザインの服が安価に手に入るファストファッション。多くの人が利用した経験があると思います。しかし、これらのパフォーマンスを保つために犠牲になった人たちがいたことを忘れてはいけません。

今回はバングラデシュの縫製工場の倒壊事故、通称「ラナプラザの悲劇」についてその背景や事件後のアパレル業界への影響などを解説します。

事故の起こった背景~バングラデシュにおける縫製産業~

現在日本国内で流通している衣料品の多くは海外で生産されています。海外に工場を設置する大きなメリットは、人件費の安さにあります。安価な服を早いサイクルで作るために、切り詰められているのは人件費なのです。

より貧しい国ほど人件費は安くなります。コストカットを追求する企業は、より安く労働者を雇える国を探しました。その結果、アジア最貧国と言われるバングラデシュに多くの裁縫工場が建設されました。縫製産業はバングラデシュの主要産業となっており、縫製業に従事する国民は400万人以上といわれています。
事故当時のバングラデシュの裁縫業界の平均月収は3900円程度でした。それも早朝から夜中まで作業をしてこの程度の賃金しか支払われていないのです。

また、劣悪な労働環境も大きな問題でした。縫製工場で働く従業員のほとんどは女性であり、マネージャーからのパワハラやセクハラが常態化していました。
安全対策もずさんで、老朽化した工場や、基準に満たない違法に建築された工場が多くありました。

ラナプラザの事故の概要

ラナプラザはバングラデシュの首都ダッカにある8階建ての商業ビルでした。ラナプラザには大規模な縫製工場をはじめとして銀行や商店など多くの商業施設が所狭しと詰め込まれていました。
事故の前日にはビルに亀裂がみつかり、ビルの使用を中止するように警告があったものの、ビルのオーナーは警告に従わず、営業を続けました。倒壊事故が起きたのはその翌日でした。

2013年4月24日の朝7時頃、ラナプラザは轟音をたてて突如崩壊しました。事故が朝のラッシュアワーと重なったこともあり、その被害は甚大なものでした。死者1138人、負傷者2500人以上という凄惨な結末を生みました。
事故後の調査で分かったことですが、マネージャーは前日の段階で訴えのあった従業員の避難を許さず、解雇をちらつかせて脅していたそうです。

上層階にあった4基の大型発電機の振動とミシンの振動が連動したことがビル崩壊の直接的な原因でした。また、この発電機が置かれていた上層階は違法に増築された場所であったため、耐久性に深刻な問題がありました。

事故後ビルのオーナーや工場の経営者は逮捕されました。しかし、被害者や遺族への補償は遅れており、まだまだ事件の解決には至っていません。

ラナプラザの悲劇はアパレル業界の方針転換のきっかけに

ラナプラザの悲劇はアパレル業界全体の利益追求の姿勢が招いた事故でした。より低価格でより大量に生産することを目指した結果、現場で働く労働者に大きな負担をかけていました。

ラナプラザに入っていた工場は、世界中の様々な有名ブランドの受注を受けていました。安価な人件費を求めてこれらの工場に受注をしていた結果、このような悲惨な事故が起きました。この事故は、アパレル企業の社会的責任に注目するきっかけになったのです。

ユニクロやH&M も参加した建造物の安全協定の発効

事故の翌月には、工場の安全性を保つための機関として「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定(The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh )」が設立されました。バングラデシュの多くの縫製工場の安全検査が実施され、問題のある工場は業務改善命令が出たり、工場の閉鎖命令が出る法的拘束力のある協定です。

この協定にはユニクロやH&M などの主要アパレル企業222社が署名しています。調査により問題があると判断された工場の改修費用もこの協定に署名した企業が負担する仕組みになっています。

工場の安全性を監視する労働者安全連合の結成

アメリカの企業が中心となった「バングラデシュ労働者安全連合(Alliance for Bangladesh Worker Safety)」も結成され、工場の安全性と労働環境の監視を行っています。5年間の期限付きで発足した組織であったため、2018年いっぱいで活動を停止しましたが、後継団体が同様の活動を続けており、労働環境の改善に寄与しています。
皮肉なことに、ラナプラザの悲劇を通して縫製工場における安全意識が飛躍的に高まったのです。行き過ぎた物質主義により、見て見ぬふりをされてきた労働者の基本的人権を尊重しなければならないという意識を業界全体で共有する必要があります。

映画にもなったラナプラザの悲劇

世界中に衝撃を与えたラナプラザの悲劇は、華やかなファストファッションの裏側にある悲劇として映画化もされました。
『ザ・トゥルー・コスト〜ファストファッション 真の代償〜』は、ラナプラザの事故をきっかけに作られました。「普段着ている安価な服は異国の労働者の血と涙で出来ている」そんな事実を知る映画です。

また、監督のアンドリュー モーガンはインタビューでこのように語りました。「罪悪感や重い気分を抱いてもらうための作品ではなく、見つめたことのない世界への招待状なのです。あなたも服を買うだけでその一部であるから。」

この映画を見ることで、服を生産する光景に目を向け、声をあげるきっかけになるのかもしれません。便利さや手軽さが他の人々を搾取することによって成り立つものではいけないのです。

エシカルファッション~これからの時代のファッショントレンド~

世界はファストファッションの問題に目を向け始めています。ラナプラザのような悲劇を生まないために私たちは、「エシカル」や「フェアトレード」といった商品に目を向けるべきではないでしょうか。

エシカルとは「倫理的な」という意味を示します。エシカルな商品は、社会や環境に対して倫理的配慮をしたものです。例えば、十分な賃金が支払われており、安全性の確保がされている工場で生産された服はエシカルであると言えます。
アパレル業界に関連する様々な被害が明るみになるにつれて、このようなエシカルファッションを買いたいという気運は高まってきています。企業側も需要への対策を迫られるため、多くのファッションブランドがエシカルファッションに取り組むようになりました。

ファストファッションの発展により、今までにないほどに服の値段は下がっています。服にエシカルという価値を与えるエシカルファッションを選ぶことで、低価格・大量生産の流れからの脱却を目指すことができるかもしれません。

まとめ

普段目にしている服がどこで、どのように作られているのか。そんな当たり前のことに目を向けてみるだけで、今まで見えてこなかった様々な問題が見えてきます。ラナプラザの悲劇は、多くの人が問題を直視するきっかけになりました。自分の行動に伴う代償が明らかになりつつある今、この困難を乗り越える新たなシステムを作らなければなりません。
私たちは服を選ぶときによく考え、買った後も大切に扱う必要があります。
シーズンが過ぎたら捨ててしまうのではなく、永い時間を共に過ごしたいというような愛着のわく商品を購入することで、ファストファッションからエシカルファッションへの移行を目指せるのではないでしょうか。

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